苦難を乗り越えることより
その渦中にあっても
幸せを見出すこと

INTRODUCTION|はじめに
Place|国立新美術館2階企画展示室(六本木/東京)
Experience|世界初の海外出展
For someone|歴史的大作から感じる「意志」

チェコ共和国と言えば絵本やボヘミアンガラス、あるいは首都はプラハと聞くと華々しい国家として思い浮かぶ人も少なくない。しかし現在のチェコが出来たのは1993年、驚くことにチェコはまだわずか20年たらずの国家なのである。中世代よりオーストリア、ハンガリーなど各国の支配を受けながらも独立への革命を繰り返してきた。その独立への確固たる意思こそ、「スラヴ」という民族主義に他ならない。今やチェコを代表する画家であるアルフォンス=ミュシャ、彼が独立気運高まる20世紀前半に描いた“スラヴ叙事詩”は、スラヴ人としての国民の魂を少なからず後押ししたことだろう。8メートル20枚というかつて無いスケールで描かれた歴史的な大作を国立新美術館で見ることが出来る。

色にのせられた
ミュシャの切ない想いを感じる

“スラヴ叙事詩”は、第一世界大戦の開始した1914年に一作目が描かれた。この年に描かれたうちの2点が下図にあたる。(1)の作品で描かれているのは、チェコ語の聖書発祥の地であり、ミュシャの生まれ故郷でもあるボヘミアのイヴァンチツェだ。1457年に結成された兄弟団は教育こそが真の信仰の鍵であると信じ、新約聖書のチェコ語への翻訳を行っていた。そして、初めてチェコ語で書かれた「クラリツェ聖書」は、チェコ人のアイデンティティの象徴になった。左手前に描かれたこちらを見据える学生は、若き日のミュシャ自身である。教会塔を囲んで飛んでいる鳥達と共に、やがて訪れる悲しい迫害を暗示しているようだ。

(2)の作品は、スラヴ叙事詩制作にあたり支援したチャールズ・クレインが希望したテーマ。1913年にミュシャが露へ訪れた後で描かれたものだ。本来は1861年の産業改革の称賛、スラヴ人最大の国家ロシアの栄光を描くつもりでいたが、変わらない露庶民の悲惨な現状を目の当たりにしたミュシャは、旅から戻り絵の色調を色褪せたものに変更したと言われている。

描かれた夢と希望
未来へのヴィジョン

1914年から26年後半に至るまで12年の間に描かれた20枚の作品、後半も独立は果たせておらず、幸せなシーンはひとつも描かれていない。(3)の作品を作り始める前の1924年、ミュシャは実際にアトス山を訪れ、その時代を超越した神聖な雰囲気に深く感銘を受けたと言われている。スラヴ叙事詩の魅力のひとつに写実的な描き方と象徴的な表現があるが、この絵は特にこの特徴が大きく表れている。

(4)の作品は、顔が判然としない人物がいることから、唯一未完のまま筆を止めた作品とされている。男たちの右手を挙げた姿がナチスの敬礼に似ていることや、鉤十字に似たモチーフがあるなどの点がナチスの賛歌と受け取られてしまったのだ。誤解がひとり歩きしてしまったこの絵は、生前一度も公にされることはなかった。

スラヴ民族の歴史が4色で描かれた(5)の作品は、連作最後の一枚。両手を大きく広げた巨大な青年はチェコの独立を象徴しており、ミュシャの夢や想いが込められた未来のヴィジョンなのだ。

Information
会期 2017年3月8日〜6月5日 / 10時〜18時 ※金のみ〜20時
場所 国立新美術館2階企画展示室(六本木/東京)
ウェブ http://www.mucha2017.jp/
観覧料 当日券・1,600円 / 前売り券・1,400円
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